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夏への扉

『夏への扉』(ハヤカワ文庫)

古典SFつながりでロバート・A・ハインラインの『夏への扉』をご紹介。『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』よりもさらに古い作品で1957年に発表されたものである。小説の中で描かれる「未来の世界」が「紀元2000年」であることからもその古さが伝わるだろう。

ずば抜けた才能をもった発明家デイヴィスは、婚約者と親友にペテンにかけられ、発明品と会社の権利を奪われてしまう。最愛の二人に裏切られ絶望の淵に立っていた彼は、眠っている間に貯蓄が増える「冷凍睡眠保険」の広告を目にし、今ある苦悩を眠って忘れてしまおうと決意する。

30年後に目覚めたデイヴィスは、自分の頭の中にあった設計図を元に作られたようなロボット(製図機)を目にする。自分と全く同じ発想を持つこの発明家は一体誰なのかと調べてみると、それは自分自身であることが判明し愕然とする。この不可解な謎を解くため、デイヴィスは再び30年前の「あの日」に戻る決意をする。

冷凍睡眠とタイム・トラベルをベースとしたSF小説だが、個人的にはSF的要素をもったヒューマン・ドラマだと思っている。本格SFと言うには設定が甘く、全体的にご都合主義な部分が多い。タイム・パラドックスも生じており、ガチのSFファンの方には物足りないかもしれない。

しかし、自分の理想とする未来にたどり着くための道筋を解き明かし、過去に戻って入念な仕込みを行い、裏切った二人に一矢報いながら念願の「夏への扉」にたどり着くという復活劇は読んでいて実に爽快だ。

また、人に裏切られ絶望したデイヴィスが「なんど痛い目をみようとも、結局は人間を信用しなければなにもできないのではないか。」と再び人を信じた結果、明るい未来を勝ち取ることができたという人間ドラマは、王道だが読後感が良い。

最近、陰鬱なニュースが続き気が滅入る。だからこそ「誰がなんといおうと、世界は日に日に良くなりまさりつつあるのだ。」という強い信念を持ち「未来は、いずれにしろ過去にまさる。」と未来を前向きに捉える姿に希望を感じる。人を信じたいし、未来は明るいと信じたい…そんな気持ちに応えてくれる一冊だ。

2019.5.29投稿

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