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『チ。―地球の運動について―』感想

『チ。―地球の運動について―』

今年の夏は読みたいと思いつつ読めずにいた漫画@夫所蔵を一気読みしたので、書評とまではいかない感想を書き記しておこうと思う。一冊目は『チ。―地球の運動について―』

地動説の立証に命をかけた者達の生き様を描いた歴史ファンタジー漫画。個人的に絵柄がちょっと苦手な感じで手をつけていなかったのだが、ストーリーは面白く、読み始めると一気に読んでしまった。好き嫌いせず読んでよかった。

宇宙の真理を求めて死んだ少年の研究が、形を変えながら様々な人に受け継がれ、地動説として完成していく様は読んでいてワクワクした。自分がこの世に生まれた理由はこれだと確信しながら生きている人はあまり多くはないだろう。だからこそ、それぞれの人物が地動説を通して己の生きる意味を見つけ、己の役割を全うしようと命を燃やす姿に、読み手は憧れやカタルシスを感じるのだと思う。

一方で異端審問官ノヴァクの生涯にはなんともやるせないものを感じた。「C教」に傾倒し異端を排除することこそが己の生きる意味と信じ突き進んだ結果、彼は最終的に最愛のものを失ってしまう。生きる意味を見つけてそれに邁進することは人として憧れる生き方ではあるが、一歩間違うとそれは狂信や暴走となり、大切なものを傷つけ、失わせたりする。美しくも危うい、人間の情熱と信仰をテーマとした作品だと感じた。

最後に、この作品は史実を元にした歴史漫画ではなくフィクションである。舞台は15世紀の「P国」、「C教」以外は異端とされる世界…といかにも中世ヨーロッパを思わせる設定だが、登場人物も8集に出てくるアルベルト以外は架空の人物である。アルベルトの出てくる8集の59話以降からは15世紀のポーランドが舞台になっているので、それ以前のストーリーは違う世界=架空の話として捉えた方がよいだろう。

実際、作中で描かれている地動説への社会的評価は史実とは色々と異なる点がある。中世ヨーロッパでは天文学は迫害などされていなかったし(むしろ天文学者は重用されてすらいた)、地動説を唱えただけで処刑になったりもしていない。(ガリレオも処刑はされなかった。そもそもガリレオの裁判自体が宗教的な理由というよりも政治闘争的な色合いが強かったと言われている。)なので中世ヨーロッパ史の勉強のために読むのではなく、歴史ファンタジーとして純粋に楽しんで読みながら読むことをおすすめする。

2022.10.8投稿

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