『四畳半神話大系』(太田出版)

今年最初の書評は森見登美彦氏の『四畳半神話大系』。15年ほど前に読んで以来、独特の…というかかなりクセの強い森見登美彦氏の世界にハマった。彼の作品は文豪の名作文学を彷彿とさせる古風な文体で大真面目にふざけているところに魅力がある。

『四畳半神話大系』は「四畳半恋ノ邪魔者」「四畳半自虐的代理代理戦争」「四畳半の甘い生活」「八十日間四畳半一周」の四篇から成る短編集で、それぞれ独立したストーリーとして楽しむことができる。でも最初は順番通りに読むことをおすすめしたい。

主人公は薔薇色のキャンパスライフを送り損ねたことを悔やむ大学3回生の「私」。こうなったのは全て悪友「小津」のせいと恨みがましく思いつつも、腐れ縁を切ることができずにいる。もし1回生の時に別のサークルを選んでいればと自分の過去の選択を後悔する「私」であったが…。

登場人物がそれぞれ強烈な個性的をもっており、ストーリー展開も突飛でまるでドタバタ喜劇を見ているようだ。全編通してコミカルでふざけた話なのだが、時折ハッとさせられる部分もある。

例えば「四畳半自虐的代理代理戦争」で描かれている「樋口師匠」と「城ヶ崎氏」との闘いは、実は誰が何のために始めたのかも不明なのに代々引き継がれているものだと判明する。実社会にもこのように意味もなく脈々と受け継がれている不毛な対立は数多くある。

また最後の「八十日間四畳半一周」に描かれている80日に渡る孤独な行軍は、人が生きる姿そのもののように思える。足掻いてみたり、無気力に陥ったり、ヤケになったり、思い出に耽ってみたり…。そして四畳半の部屋が自らの選択によって生じた並行世界であると気がついた時「私」はその無限性を理解する。

毎日生きていく中で私達は様々な選択をしている。時にはほんの些細な選択の違いによって大きく運命が変わることもある。物事がうまくいかなかった時は「あっちを選べばよかった」「ああすればよかった」と後悔してしまうことも多い。そんな時はつい過去の自分を責めてしまいがちだが「とりあえず大目に見てやるにやぶさかではない。」と広い心で受け入れるようになれたらと思う。