『てぶくろ』(福音館書店)
今年最初の絵本は『てぶくろ』。この絵本はウクライナ民話であることから今ちょっと話題になっている。
ななちとこの絵本の出会いは幼稚園入園前、地域の保育コミュニティーでの絵本読み聞かせの時である。ななちと一緒にお話をききながら、この絵本は読み聞かせることによって魅力が倍増するなと感じた。
この物語は冬の森を歩いていたおじいさんが手袋を片方落としてしまうところから始まる。手袋をみつけたねずみはここで暮らそうと手袋の中にもぐりこむ。そこにかえるがやってきてわたしも入れて欲しいと頼む。ねずみはかえるを招き入れ、二匹で手袋に潜り込む。すると今度はうさぎがやってきてぼくも入れてと言う。二匹はうさぎを招き入れ手袋の中は三匹に。
こんな調子で色々な動物が手袋に入れてくれとやってくるのだが、その大きさがどんどん大きくなっていくのが面白い。うさぎまではギリギリ理解できるとして、キツネ、おおかみくらいになってくると流石に子供たちも「ええっ?」となってきて、イノシシがやってきた時には「絶対むりー!」と声をあげた。しかしそこは絵本の世界、ぎゅうぎゅうづめになりながらも入ってしまう。さらに大きなくまやってきてが「わしも いれてくれ」というのだからたまらない。子供たちはこのページで大笑いだった。ななちも子供心に「おじいさんて巨人?(くまが入るサイズの手袋をしているから)」と不思議に思ったそうだ。4歳の頃だったと思うのだが、この絵本のことははっきりと覚えているくらい印象的な物語だったようだ。
この絵本はなんといっても絵が素敵だ。写実的なのに少し擬人化されている動物たちがとても愛嬌がありかわいらしい。動物たちはみな洋服を着ているのだが、これはウクライナの民族衣装であるそうだ。雪の日の夕方を思わせる薄暗い背景と、動物たちが着ているカラフルな衣装が対照的で絵画のような美しさがある。
そして最大の魅力は「記憶しりとり」的な言葉遊びになっているところだ。「だれだい、てぶくろにすんでいるのは?」という問いかけに対し、「くいしんぼねずみ」、「くいしんぼねずみと ぴょんぴょんがえる。」、「くしんぼねずみと ぴょんぴょんがえると はやあしうさぎ。」とページをめくるたびに手袋の住人が増えて行くのだ。この答える部分を子供に言わせたり、親子で交互に言い合ったりすると双方向で楽しい読み聞かせができる。
種類も大きさも異なる動物たちが「ちょっとむりじゃないですか」とか「まんいんです」とか言いながらも、お互いを受け入れて一つの手袋の中に入っている。そこに手袋を落としたおじいさんが飼い犬と共に戻ってきて、飼い犬が手袋に向かって吠え立てると、中にいた動物たちは一斉に逃げ出し、おじいさんは手袋を拾う…という形で物語は終わる。
当時は「くまが入っていたサイズの手袋をおじいさんはつけられるの?」なんて笑っていたが、今読み返してみるととウクライナの社会情勢の隠喩のようにも感じられる。複雑な歴史と民族問題を抱えながらもなんとか均衡を保っている社会。それはちょっとした刺激であっという間に崩れてしまう…そんなメッセージが込められているような気がした。
去年はななちの受験があったため絵本を読む時間も心の余裕もなかったのでほとんど絵本レビューを書かずに終わってしまった。(絵本レビューを謳っているいるブログなのに…。)今年はもうちょっと書けるように頑張りたい。
2022.5.24投稿