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タイタン(野崎まど)

『タイタン』(講談社)

すごい小説に出会った。野﨑まどさんの『タイタン』。寝る前に少しだけと読み始めたところ思わず一気読みしてしまい、気がつくと午前3時をまわっていた。ここまで夢中になったのは久しぶりだ。人は圧倒されると語彙力を失うと言われるが、本当にそんな感じだ。この本はすごかった。

しかしこれでは書評にならないのですごいと感じた点をつらつらと書いていきたい。ただ、内容に関してはなるべくカバーに記載されたあらすじ以上のことは書かないようにしようと思う。この本はぜひ、ネタバレなく読んでもらいたいからだ。

物語の舞台は2205年、AI『タイタン』の誕生により高度に自動化・自律化された豊かで平和な社会である。あらゆる産業の仕事が『タイタン』の管理する完全自動で働くロボットにより担われ、あり余るほどの物やサービスが無償で提供できるようになったことにより、人類は労働から解放され自由を満喫していた。

そんな夢のような社会に暮らしていた内匠成果のもとに、一人の男がやってくる。男は『タイタン』を管理する仕事を持つ、この世界においては数少ない「就労者」であった。彼は心理学を趣味とする成果に一つの「仕事」を依頼する。突然機能不全に陥った『タイタン』をカウンセリングしてほしい、というのだ。始めて経験する「仕事」に不安と重圧を感じる成果であったが、『タイタン』と対話を重ねて交流を深めていく中で「仕事」の本質を理解を理解していく。

人間の代わりに働くために創られた『タイタン』にとって「仕事」はアイデンティティそのものだった。しかし機能不全で働けなくなった『タイタン』は、仕事をしていない時も自分が存在する事を認識することにより「仕事」と自己は同一ではない事を知る。では自分にとって「仕事」とはなにか。『タイタン』のいない現代社会においては、私達人間がその問いの答えを探求している。

個人的に一番すごいと感じたのがストーリー展開の斬新さだ。私はSF系の小説は古典も新しいものも幅広く色々読んでいる。そのため無意識的に展開を予測しながら読んでしまう癖があるのだが、この小説はあらゆるシーンで私の予想した展開の斜め上を行った。何度もある意味裏切られ「え?そうくるの??」と思わず笑ってしまう部分もあった。そんな奇抜で予測不能なストーリー展開にも関わらず、結末は実にすとんと腑に落ちるものであった。

また小説の空気感も独特だった。コミカルな話なのかと思ったら、次の瞬間には至極哲学的な話をしていたりする。ふざけているようでありながら、ものすごく深い事を言っていたりする。もしかしたら、全体を通してやっていることは哲学であり、そこに娯楽的要素を散りばめることによってその哲学を読みやすく、わかりやすい形に噛み砕いてくれている、ということなのかもしれない。今までにない読書体験だった。

あまりにも面白かったので、早速野﨑まどさんの別の作品も買って読み始めている。これもまた面白い。

2020.7.1投稿

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