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infodemic

インフォデミックで思い出すバグダッシュ中佐の言葉

我が家は毎月地元のお米屋さんにお米を注文している。私は運転できないため、スーパーで買ってくると重くて敵わない。自宅まで届けてくれるお米屋さんはありがたい存在なのである。

長年注文しているため我が家のお米の消費ペースを完全に把握しており、絶妙なタイミングで「そろそろ届けましょうか?」とお米屋さんの方から連絡をくれる。先日などは、休校と在宅勤務でお米の消費が増えていることを見越していつもより早めに連絡をくれた。地元のお米屋さんのお得意さんになっているとどんな時でも安定してお米を購入できるのでおすすめだ。

そのお米屋さんは、配達の際に手作りの新聞を一緒に届けてくれるのだが、これがなかなか面白い。ごはんがすすむおすすめレシピや歳時記などが書かれていて、毎月楽しみに読んでいる。仕事柄、ネットニュースの記事やブログを読むことが多いが、面白いなとか、わかりやすいなとか思える文章に出会うことはあまりない。キャッチーなのは見出しばかりで、内容はがっかりするほど薄いというものが増えた気がする。その点、このお米屋さんの新聞は質が高い。B4の紙にテキストがびっしりと言う味気ないデザインであるが、文章は読みやすくわかりやすい。丁寧に推敲して書かれたものだと思う。

今回の特集は新型コロナウィルスだった。誤った情報に踊らされないようにという注意喚起をはじめ、コロナウィルスの性質やそれに基づく予防策、家庭での対応法などが専門家の発信する科学的な情報に基づき書かれていた。お米屋さんの利用者層の多くを占めているのは地元の高齢者だと思われるので、こうした媒体を活用して正しい情報を広めていこうという姿勢はとても素晴らしいと思った。

この数ヶ月間、私が新型コロナウィルスの感染の拡大よりも恐ろしいなと感じているのがインフォデミックと呼ばれるデマの氾濫だ。インフォデミック(Infodemic)とは、information(情報)とepidemic(伝染)をくっつけた造語で、主に疫病などの流行時に真偽不明のデマや流言が急激に広がり社会を混乱させている状況を表す。2003年にSARSが流行した頃から使われているようだ。

新型コロナウィルスの感染拡大が始まって以来、毎日のように様々なデマが出回っているのを見かける。最初の頃にあったのはLINEを中心に拡散されていた「新型コロナウィルスは26~27度で死滅するからお湯を飲むのが効果的」といったものだ。人間の体温何度だと思ってるんだよと突っ込むしかないデマだが、チェーンメールのような形でかなり広く拡散されていた。

次に出たのが「中国からの輸入ができなくなるのでトイレットペーパーが品不足になる」といったものだ。これもトイレットペーパーの袋を見れば「日本製」と書いてあるのだからすぐにデマだとわかりそうなものなのに、FacebookやTwitter経由であっという間に拡散され、買い占めに走る人が出た。そのため急激な需要過多が発生して、品薄になり、その様子をテレビが報道したものだから、さらに買い占めが進み、結果的に品切れの店が続出という結果になった。デマが現実になった最悪のパターンと言える。

さらに最近では、新型コロナウイルスは実は5G拡大の影響によるものだとのデマがイギリス国内で広がり、携帯基地局が放火されるという事件が起こった。どんなSFの世界だよ?とびっくりするようなデマなのに、信じてしまう人は思った以上に多いようだ。

災害や疫病により社会的不安が高まっている時は、冷静な判断ができない心身状態に陥っている人が多い。また同時に「自分も社会のために何かしたい」という心理が働きやすくなっている。そうした所にセンセーショナルな情報が投下されてしまうと、それが真偽不明なものであっても感情的に「これが真実だ」と思い込み、「みんなに伝えなくては」という親切から、多くの人が情報拡散に加担する。その結果、デマやフェイクニュースが拡散され、社会は更に混乱してしまう。これがインフォデミックの発生の仕組みなのだと思う。

今回の新型コロナウィルスに関しては、そうしたインフォデミックの仕組みを十分に理解した上で、それを私心に添うように利用している人や団体が多いと感じる。名のある個人や影響力のあるメディアが、意図的に情報を歪めたり、誤解されやすいように切り取って大きな声で発信しているため、専門家の科学的な情報が届きにくくなっている。そこが一番恐ろしい。

インターネットやソーシャルメディアによって、個人個人が膨大な情報を受信し、発信できるようになった現代こそ、皆が『銀河英雄伝説』のバグダッシュ中佐の名言を心に留めておく必要があると思う。

世の中に飛び交っている情報ってものには、必ずベクトルがかかっているんだ。つまり誘導しようとしていたり、願望が含まれていたり、その情報の発信者の利益をはかる方向性が付加されている。それを差し引いてみれば、より本当の事実関係に近いものが見えてくる

余談だが『銀英伝』の中で一番好きなのはオーベルシュタインだ。頭脳明晰な上私心がなく、冷徹なくらい理性的であるのに愛犬には甘々。魅力的なキャラクターだと思うのに、何故か誰にも理解してもらえなかった。学生時代に一人だけ共感してくれた人がいて、この人とは気が合いそうだと嬉しく思った。それが夫である。

2020.4.9投稿

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