『ボッコちゃん』(新潮文庫)
海外のSF本が続いたので、今回は日本のSF本を紹介しようと思う。日本最初のSF同人誌の創刊に参画し、ショートショートという分野を開拓した日本のSFの草分け的存在、星新一の『ボッコちゃん』だ。
『ボッコちゃん』は表題となっている作品をはじめ「おーい でてこい」や「鏡」「不眠症」など、50編の短編小説が綴じられている。どの小説も一話あたり10ページ前後というごく短いストーリーだ。
ストーリーの舞台は近未来であるが、海外SF本に見られるようなハードボイルドな主人公や魅惑的なヒロインは登場しない。登場人物もエヌ氏だったり、エス氏だったりと適当な名前が多い。あえてキャラ立ちさせないことにより、狡さや残酷さ、滑稽さというものが人類共通のものであることを描き出しているのだ。
例えば「生活維持省」では犯罪や事故のない、人々が穏やかにのんびりと暮らす平和な未来が描かれている。皆が十分な広さの土地を持ち、あくせく働くことなく好きなことをして過ごせる理想的な社会だが、ストーリーの後半でその社会を維持するシステムが明らかになった時、なんとも言えない気持ちになる。
星新一の作品はどれもオチが衝撃的だ。昔話や説話のようにくすりと笑えるものもあるが、多くはぞくりとさせられる。今風な言い方をすると「イミコワ(意味がわかると怖い話)」というやつだ。つらつらと読んでいると最後の最後にパンチを食らう。落語みたいな小説だと思う。
個人的には「おーい でてこい」、「暑さ」、「鏡」、「生活維持省」あたりの最後にぞくりとする話が好き。
2019.6.12投稿