『ねずみとくじら』(評論社)
今月最後の絵本レビューは『ねずみとくじら』。小さな陸のねずみと、大きな海のくじらの静かな友情の物語である。
海が大好きなねずみのエーモスは、航海に出ようと船を作って意気揚々と出発するが、うっかり海に落ちてしまう。船を失い、体力も尽き、死を覚悟したところにくじらのボーリスが通りかかり、エーモスは一命を取り留める。二人は意気投合して親友となり、エーモスは命の恩人であるボーリスに、助けが必要な時は喜んで協力すると約束して別れる。
エーモスは陸で、ボーリスは海でそれぞれ幸せに暮らして長い年月がたったある日、嵐にあったボーリスがエーモスのすむ浜べに打ち上げられてしまう。運良くエーモスに再会したものの、小さなねずみに自分の巨体を海に戻すことなどできないとボーリスはあきらめる。ところがエーモスはびっくりするような方法でボーリスを助け出す。
ストーリーとしてはイソップ寓話の『ライオンとねずみ』に似ている。しかし二つの物語は、ねずみとの関係性が異なっている。ライオンは終始ねずみを「小さくて何もできやしない」と侮っているのに対し、くじらは
あのちいさいねずみくんが、ぼくのやくにたちたいとさ。しんせつのかたまりだな。ぼくはかれがすきだ。
と言うように、小さいながらも自分の役に立ちたいと言うねずみを愛おしく思っている。ねずみとくじらは互いに対する敬意があり、対等な関係なのだ。
そのため似ている話だがテーマは大きく異なっている。『ライオンとねずみ』は「小さく非力なものを侮ることなかれ」という訓話なのに対し、『ねずみとくじら』は「本当の友達とは何か」を気づかせてくれる物語だ。住むところが違っても、大きさや力が違っても、お互いに相手を大切に思う気持ちがあれば対等な関係を築くことができる。そしてこの対等な関係であるという点こそが、本当の友達であるか否かを見極める点なのだと思う。
とても温かい絵本なのだが、使用されている言葉は難しい。原文(英語)の雰囲気を残したいという訳者の意図や、初版が43年前という時代的なものも関係しているのだと思うが、「なぎわたった」「はたして できがよく」「やまなす おおなみ」「しあんしました」など、日常生活ではあまり使われないような文語的な表現が多く使われている。しかも子供向けと言うことで、そうした言葉が全部平仮名で書かれているので、少し読みにくい。小さな子供に読み聞かせる際には、難しい言葉は噛み砕きながら(例:しあんしました→かんがえました)読み聞かせると良いと思う。
個人的にはこうした少し古めかしい文体は好きだし、この絵本のもつ雰囲気やテーマにもとても合っていると思う。
ふたりは、このさき2どとあえないことを しっていました。
そしてぜったいに あいてをわすれないことも しっていました。
少ししんみりするけれど、本を閉じた後には温かい気持ちが残る、最後の一文は秀逸だと思う。
2019.11.27投稿