『りんごかもしれない』(ブロンズ新社)
テーブルの上に何気なく置いてある、一つのりんご。何の変哲もないりんごに見えるが、果たしてこれは、本当にりんごなのだろうか…少年の一つの小さな疑念から生み出された突拍子もない空想の世界に、子供達はお腹を抱えて大笑いするに違いない。
ユニークなイラストと、おもしろおかしい文章のおかげで、小さな子供でも簡単に笑いながら読めてしまう絵本だが、その根底には、深いテーマがある。それは、常識だと思っていることを疑ってみることにより、異なる視点から物事を見てみよう、ということだ。一つの価値観にとらわれず、多角的な視点を持つことの大切さを、この絵本は伝えているのだと思う。
最近、なんとなく感じている事だが、人の思考がどんどん均一化されてしまっているような気がする。
ネット掲示板やSNSにより、個人が簡単に自分の意見を発信できるようになった。「いいね!」ボタンやリツイートにより、相手に共感を伝え、同じ価値観を共有し、仲間意識を強めていく。それに連動するように、価値観や意見が異なる相手に対する許容範囲が、どんどん狭くなってきているような気がするのだ。
そのため「あいつは悪いやつだ」というレッテルが貼られてしまった人は、過去の実績も功績も全て否定され、社会的に再起不能になるまで徹底的にたたかれる。それだけでなく「悪いやつ」を擁護する人も「悪いやつ」と認定され、拒絶・攻撃の対象となる。それゆえ、異なる意見を持っていても口をつぐみ、みんなで声を揃えて「悪いやつ」を攻め立てる。最近のこうした風潮は、中世の魔女狩りに通じるような気がして、少し気持ちが悪い。
人間は複雑な精神構造を持つ動物で、多様性に富んでいる。国や地域によって価値観も文化も大きく異なるが、そのどれもが正解でその国の常識だ。だからこそ、共存のためには、柔軟で多角的な視点を持つことが大切だと思う。
2016.1.29投稿