実家の名義変更をしてみた
父が亡くなった際、実家は母が相続したのだが「父の名前を残しておきたい」という母の希望で名義は父のままにしていた。しかし来年(2024年)の4月に相続登記が義務化するのに伴い相続した不動産の登記・名義変更手続きを3年以内に行わなかった場合、10万円以下の罰金が科せられるという話を聞いたので母を説得し、名義変更手続きを行った。
父から配偶者である母への名義変更なので司法書士事務所に依頼するまでもないだろう…と法務局のウェブサイトを参考に自分でやってみたところ、手間はかかったが問題なくできたのでその手順を備忘録として残しておく。
手続きの流れ
1.管轄の法務局を調べる
相続登記は必ず不動産の所在地を管轄する法務局に申請する必要がある。管轄外の法務局に申請しても受付してもらえないので注意が必要だ。相続した不動産が遠方の場合は郵送による相続登記申請も可能である。(ただし申請書に訂正があった場合は直接窓口まで行って手続きしなければならない。)
法務局ごとに手続きの流れに違いがあったりするので、まずは管轄の法務局に相談するとよい。管轄の法務局に電話をし、相続登記をしたい旨を伝え、必要な書類や手続きの流れを事前に確認しておくとその後の作業がスムーズになる。私が行った法務局では対面で作成した申請書や算出した登録免許税の金額などを全て確認してくれた。
2.登記申請書をダウンロード
不動産登記の申請書は法務局のウェブサイトでテンプレート(様式)をダウンロードすることができる。ダウンロードファイルの形式はWord、PDF、そして一太郎(懐かしい!)の3種類となっている。
第一の関門はこのたくさんの申請書様式の中から自分が使用すべきテンプレートを選ぶことだと思う。相続による所有権移転の申請書は17番から22番まで。この中から自分の相続形式(遺言書、法定相続、遺産分割協議、遺贈など)に合った申請書を選ぶ必要がある。今回は遺産分割協議による相続なので、20番の「所有権移転登記申請書(相続・遺産分割)」の書類を使用した。
記入例も一緒に配布されているのでそちらを参考にしながら作成する。作成時の注意事項は下記の通り。
注意事項
[原因]
「原因=名義人が亡くなった」と言うことで、ここには死亡した日(戸籍上の死亡日)を記載する。遺産分割協議が成立した日ではないので注意が必要だ。
[相続人]
複数人が相続する場合は全員の氏名・住所・持分を書く。
住所は省略せずに住民票と同じように書く。
[課税価格と登録免許税]
納税通知書を元に計算して記載する。下記の「4.登録免許税」参照。
[不動産の表示]
不動産情報(所在・地番・地目・地積・家屋番号・種類・構造・床面積)は登記記録(登記事項証明書)に記録されている通りに正確に記載する。手元にない場合は法務局の窓口またはインターネットで取得することができる。
3.必要書類を揃える
難しくはないが手間と時間がかかって面倒なのが、戸籍や住民票などの必要書類を役所に請求して集める作業だ。中でも「亡くなった人の出生から死亡までの連続した戸籍」集めは第二の関門と言える。
最低限必要なのは以下の5つ。一つずつ説明していく。
- 亡くなった人の出生から死亡までの連続した戸籍
- 亡くなった人の住民票の除票または戸籍の附票
- 法定相続人全員分の戸籍謄本
- 相続する人の住民票
- 固定資産課税明細書
亡くなった人の出生から死亡までの連続した戸籍
生まれてから亡くなるまで戸籍を移動していない場合は問題ないのだが、上京や結婚などのタイミングで戸籍を出生地から移動している場合は「戸籍事項欄」や「身分事項欄」をみて、従前本籍地(前に戸籍をおいていた場所)を確認し、従前本籍地の戸籍窓口に戸籍の郵送申請を行わなければならない。
父の場合は結婚前は宮崎に、その前は徳之島に籍があったので、宮崎市役所と徳之島町役場の二箇所に郵送申請を行った。
戸籍の郵送申請は、各役所のウェブサイトで手順説明と申請書の配布を行なっている。ネットや電話でも問い合わせはできるのだが請求自体は郵送でしかできないので注意が必要だ。郵便でのやり取りとなるため日数がかかることを念頭においておく必要がある。
手数料は少額為替を同封して支払う。どの種類の戸籍(除籍謄本・改製原戸籍)が必要かがわからない場合は「相続のため出生から死亡までの連続した戸籍が必要」という旨を記載し、多めの手数料を入れて申請するとよい。(余った手数料は返送されてくる。)
亡くなった人の住民票の除票または戸籍の附票
令和元年6月20日から民票の除票及び戸籍の附票の除票は保存期間が5年間から150年間に延長された。なので最近亡くなって手続きをする人は問題なく発行してもらうことができるだろう。平成26年以前に亡くなっている人の場合は住民票の除票の保存期間が過ぎて、廃棄されている場合がある。その時は「廃棄証明」を発行してもらうことで附票の代用とすることができる。
法定相続人全員分の戸籍謄本
相続する人だけでなく法定相続人全員分の戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)が必要だ。我が家の場合は母(配偶者)と私と弟(子)の3人が法定相続人となる。母の戸籍は父と同じなので私と弟の分を取得。戸籍も住民票もマイナンバーカードを取得していればコンビニでも交付できるので平日役所に行かなくて良くなったのはありがたいなと感じた。(一部対応していない地域あり)
相続する人の住民票
今回は母が相続するので母の住民票を取得。住民票には1つ前の住所が記載されているのだが、そこには「サウジアラビア王国アル・カフジ」と記載があり驚いた。確かに住んでいたけど…国外の場合でも記載されるのは知らなかった。
固定資産課税明細書
固定資産課税明細書は、課税されている土地・家屋の所在・地番や価格等が記載された書類である。毎年春ごろに届く「固定資産税・都市計画税(土地・家屋)納税通知書」に同封されている。
相続する土地に非課税資産(公衆用道路など)が含まれる場合は「固定資産課税明細書」だけでなく「固定資産評価証明書」が必要となるらしい。いずれも管轄市区町村の当課の窓口で取得することができる。
以上が役所で申請する必要がある必要最低限の書類だ。
うちは遺産分割協議をして相続したので下記の書類も追加で提出した。
場合により提出が必要な書類
- 遺産分割協議書
- 遺産分割協議書に捺印した印鑑の印鑑証明書
4.相続関係説明図を作る
戸籍・住民票・遺産分割協議書・印鑑証明書などは全て原本を提出しなければならないが、原本還付請求を行うことで、後日返してもらうことができる。その際に必要なのが「相続関係説明図」だ。亡くなった人の生年月日、死亡年月日、相続人の続柄などを記載した家系図のような表で法務局のウェブサイトから書式をダウンロードすることができる。(なぜかEXCEL…)先の登記申請書にもテンプレートが同根されているのでそちらを使用しても良い。注意点としては以下の二点。
1.記載する住所は略さず、丁目や番地などの表記を住民票と揃える必要がある。
2.下から約5cmの範囲に認証文を付けるのでその部分は空けておく。
5.登録免税の計算
最後の関門が登録免許税の計算である。計算方法についても法務局のウェブサイトで説明してくれてはいるのだが、色々なパターンがあり自分がどれに該当するのかがわかりにくいのである。
一般的な相続(贈与や財産分与ではない。)の場合は「相続、贈与、財産分与などを原因とする所有権の移転の登記の場合」の数式で計算する。
登録免許税=課税標準額 × 0.004(相続による移転の税率は0.4%)
課税標準額:納税通知書において「価格」又は「評価額」と標記されている額。土地と家屋がある場合はその合計。
実際に次の例で計算してみよう。
- 納税通知書の土地評価額:9,328,539
- 納税通知書の家屋評価額:2,493,277
[1]まず記載の評価額から1,000円未満の端数を切り捨てる。
土地の評価額:9,328,539 → 9,328,000
家屋の評価額:2,493,277 → 2,493,000
[2]土地の評価格と家屋の評価額の合計を計算する。
9,328,000 + 2,493,000 = 11,821,000
※この金額を「登記申請書」の「課税表価格」の項目に記載する。
[3]これに相続による移転の場合の税率0.4%(0.004)をかける。
11,821,000 × 0.004 = 47,284
[4]この額から100円未満の端数を切り捨てる。
47,284 → 47,200
これが登録免許税として支払う金額である。
※この金額を「登記申請書」の「登録免許税」の項目に記載する。
登録免許税は税務署に納付し、その領収証書を登記の申請書に貼り付けて提出するのが原則だが、法務局によっては収入印紙で支払うこともある。管轄の法務局で確認をしよう。
6.法務局に提出する
申請書と必要書類が揃ったら管轄の法務局に行って申請書類を提出する。飛び込みでは受け付けてない場合があるので、必ず事前に電話などで確認して必要であれば予約をとる。相続人本人が提出する場合は以下の3つが必要。
- 身分証明書
- 登録免許税
- 認印
登録免許税は振り込みで払うか収入印紙で払うかを事前に管轄の法務局に確認しておく。申請窓口に提出すると、受付日と受付番号が記載された受領証を手渡される。これは登記終了後の交付書類に必要なものなので大切に保管しておく。またこの時使用した認印も必要になるので使った印鑑を覚えておこう。
7.交付書類を受け取る
名義変更が終わると、登録完了証(登記が完了したことを証する書面)と登録識別情報(いわゆる権利書)が交付されるので法務局に受け取りに行く。この時に原本還付請求した書類も一式返してもらえる。相続人本人が受け取りに行く場合の持ちものは以下の3つ。
- 身分証明書
- 受領証(受付日と受付番号)
- 提出の際に使用したものと同じ認印
これで名義変更手続きは完了。法定相続人が少なく全員近隣に住んでいるという好条件だったので比較的スムーズに進んだが、それでも7月に初回の相談に行ってからおよそ1ヶ月くらいかかった。面倒ではあったが、夏の間に終わらせることができてよかった。
2023.8.9投稿