絵本レビューとWwbと…

『ぼくは王さま』(理論社)

小学一年生の時、初めて図書室で借りたのがこの本だった。私が入学した小学校は、アラビアの僻地にある小さな日本人学校だったが、ちゃんと図書室というものがあった。びっしりと本が置かれたスチール棚が何台も並んでいる小さな部屋に入った時、たくさん本がある!全部読みたい!と感動したのを覚えている。

そして、見上げるような高さのスチール棚から『ぼくは王さま』を手に取り借りた。この本を選んだ理由は、背表紙のタイトルのレタリングが他の本と違っていて目を惹いたからだった。(このタイトルのレタリングは第2話の「しゃぼんだまのくびかざり」をイメージしたものだと思われる。)

どこの おうちにも
こんな 王さま
ひとり いるんですって

そんな前書きからはじまるこの本には「ぞうのたまごのたまごやき」「しゃぼんだまのくびかざり」「ウソとホントの宝石ばこ」「サーカスにはいった王さま」という4つのお話が収録されている。

主人公はたまごやきが大好きな王さまである。王さまはぞうのたまごのたまごやきが食べたいとか、しゃぼんだまの首飾りが欲しいとか、突飛なことを言っては大臣たちを振り回している。それに大変嘘つきだし、注射が嫌だからといってお城から逃げたしたりしてしまう臆病者でもある。子供の頃の私は、漠然と「だめな王だなあ」と思いつつも、やっぱり王さまがすきだった。

王さまは、しゃぼんだまの首飾りを手に入れるために汗水垂らして畑を耕す真面目なところがあるし、一生懸命作ったしゃぼんだまの首飾りを国民に配ってあげたりする優しさをもっている。嘘つきを見破る箱を使って、攻めてきたとなりの国の王様を退ける知恵をもっているし、無一文でお城を逃げ出した時にくすりを出してくれたくすり屋に、日銭を稼いでお金を払う義理堅さもある。

ダメな王様だが、どこか愛嬌があり憎めない。傲慢で自分勝手で無知だが、経験や学びによって、少しずつ成長していく。実に人間らしいと思う。おべっかを使う大臣も、適当な嘘でごまかす学者も、相手によって態度を変えるくすり屋も、私たちの周りでもよく見かけるタイプの人物ばかりだ。

欺瞞に満ちていると失望しつつも、時折垣間見える温かみや思いやりに救われ、やはり愛さずにはいられない…。王さまの国は、私たちの社会そのものなのかもしれない。

2018.11.16投稿

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