『100万回生きたねこ』(児童図書館)
数年ぶりに友人と会った。私の高校生活を楽しいものにしてくれた大切な友人だ。お互い結婚し、子供を育て、色々なものを抱えているはずなのに、不思議とそんな気はしなかった。昨日も部活で会ったよね?といった感じの変わらぬノリで楽しい時間が過ごせたことが嬉しく、幸せなことだと思った。
数時間に渡り色んな話をしたが、彼女の飼っているやんちゃな猫の話がとても面白かった。あまりにも賢くマイペースな猫ちゃんの話を聞いて、ふと思い出した絵本がある。「100万回生きたねこ」だ。
白と黒のシマシマ模様のトラねこは、何度も生まれ変わることができた。ある時は王様の猫として、ある時は船乗り猫として、ある時は女の子の猫として生まれ…と100万回も生まれ変わった。ねこが死ぬたびにそれぞれの飼い主たちはとても悲しんだが、トラねこはちっとも悲しくなかった。飼い主たちのことが嫌いだったのである。
ある時、トラねこは誰にも飼われていない野良猫として生まれる。トラねこは100万回生まれ変わったことを自慢し、周りのメスねこ達にチヤホヤされるが、ある一匹の白いねこだけはトラねこに関心を示さなかった。なんとか気を引こうと奮闘しているうちに、トラねこは白いねこに惹かれるようになり、「そばに いても、いいかい。」と素直に想いを告げる。
二匹は子を生み、育て、やがて年終えた。ある日、白いねこはトラねこの隣で動かなくなってしまう。今まで泣いたことのなかったトラねこは、100万回泣いて悲しみ、そして死んでしまう。トラねこは二度と生まれ変わることはなかった。
この絵本は読む人により感じ方が大きく異なる絵本だと思う。私が最初に読んだのは小学生の頃だった。その時はただ、悲しい絵本だと思った。中学生くらいになると、白ねこと出会えて幸せを知ったトラねこは幸せなのかもしれないと思えるようになった。大学の頃読んだ時は、愛されるより愛することの方が幸せなのだろうかと思い悩んだ。
大人になり、色々な形の死を経験し、結婚して、子育てをしている今はどうだろうか。
トラねこは、飼いねこの生では自分以外を愛することができなかった。野良ねこに生まれ、自分の思うようにならない相手と出会い、試行錯誤しながら想いを伝え、家庭を築いて行く中で愛と幸せを知ったのだ。飼いねこの時と何が違うのか、それは自分の生を受け身でなく、能動的に生きた、という点ではないだろうか。
残念ながら私たちは100万回も生まれ変わることはできない。だからこそ、たった一回だけのこの生を、必死に能動的に生きなければならない。今の私はそんなことを感じた。
今後20年、30年と歳を重ねた時に、年老いたトラねこのように「ずっとこのままでいたい」と思えたら、それはとても幸せなことだと思う。
2013.8.5投稿