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祈りのカルテ

『祈りのカルテ』(角川文庫)

医療ミステリというと、医療用語が出てきて難しいとか、堅めの内容でテーマも重い…というイメージがあったのだが、今回読んだ『祈りのカルテ』は実に読みやすかった。

作者は現役の医師でもある知念実希人さん。知念さんの事はTwitterのCovit19関係のツイートで知った。ワクチンに関する偏向的な記事を載せた雑誌を強く非難しており、その雑誌の版元での連載をおりる覚悟で抗議する的な事をツイートしていたので、医者でありながら作家活動もしている方なんだと驚いた。後日調べてみると作家の方が本業でしかも書いているのはミステリだと知ってさらに驚いた。気になって書店に行ってみたら『祈りのカルテ』が平積みで売られていたので早速購入。


新米医師の諏訪野良太は研修医として精神科、腫瘍外科、皮膚科、小児科そして循環器内科で働く中で、不思議な患者達と出会う。毎月同じ日にオーバードラッグをして搬送される女性、胃癌の内視鏡手術を頑なに拒む老人、火傷が治らないシングルマザー、不自然な喘息発作を繰り返す少女、VIPルームで心臓移植を待つ女優…。良太はそれぞれの患者の不可解な行動や不思議な症状と真摯に向き合い、患者の秘めた悩みや隠された問題を見抜き、治療へと導いていく。

医療ミステリは医療の闇や病院内での権力争いをテーマにした作品が多いが、この小説は患者サイドが抱える様々な問題に焦点を当てているため、医療現場を知らない一般読者にもわかりやすく共感しやすい内容となっている。また、医療不信や民間療法への傾倒、ミュンヒハウゼン症候群と言った、実際の医療現場でも問題となっている事例にも触れられていて興味深かった。このあたりの描写は現役医師としての実体験に基づいているのかもしれない。最近の知念さんのTweetにも反ワクチンな方々のリプが多く来ていて本当に大変そうだなと思った。

ワクチン接種が本格化するにつれ、医療従事者と反ワクチン運動の対立が激化しているように感じる。情報の切り取りやデマでワクチンへの不安を故意に煽ることは言語道断だが、ワクチン接種後の有害事象で悲しむ人を「偶然に過ぎない」と突き放すのも少し違う気がする。突然理不尽な事が起きると人は理由を求めたがるものだ。理屈ではワクチンとは無関係だとわかっていても、ワクチンのせいだと思わなければやっていけない心理状態なのだと思う。そうした気持ちに寄り添わずに「偶然」で片付けてしまうと、突き放されたと感じた人達はあっという間に反医療・反ワクチンに傾いてしまうだろう。

かといって日々激務に追われる医療従事者に一つ一つの有害事象に寄り添う余裕はないだろう。医師と患者の間に立ち、心に寄り添いながら問題を解決する諏訪野良太のような存在が必要なのだと思う。本来ならばそれを担うのがメディアだと思うのだが…寄り添うふりをして煽ってばかりいるというのが現状だ。

知念さんの作品は色々シリーズがでているようなのでまた読んでみたい。

2021.6.10投稿

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