絵本レビューとWwbと…

ルピナスさん

『ルピナスさん』(ほるぷ出版)

今年最初の絵本レビューは『ルピナスさん』。アメリカを代表する絵本作家バーバラ・クーニー氏の自伝的作品とされる一冊だ。この物語は海を見下ろす丘に住む一人のおばあさん、アリス・ランフィアスが村の人々から「ルピナスさん」と呼ばれるようになった経緯とその生涯を描いている。


アリス・ランフィアスは子供の頃、港で働く祖父から遠い国々の話を聞くのが好きだった。大きくなったら私も遠い国に行く。そして、おばあさんになったら海のそばに住むことにする…と夢見るアリスに、祖父は一つのお願いをする。

世の中を、もっとうつくしくするために、なにかしてもらいたいのだよ

アリスは何をすればいいかはわからなかったが「いいわ」と約束をする。

大人になったアリスは、ミス・ランフィアスとして図書館で働きながら、世界のさまざまな国を旅する。南の島や一年中氷の溶けない山、ジャングルに砂漠。そして行く先々で、多くの忘れられない人たちに出会った。

やがて歳をとったミス・ランフィアスは、背中を痛めたのをきっかけに旅をやめ、海のそばで静かに暮らし始める。世界中を旅し、海辺で老後を過ごすという自分の夢を果たした彼女は、もうひとつしなければならないこと…祖父との約束を思い出す。

世の中をもっと美しくするために今の自分ができることは何か。ベッドに横たわり、海を眺めながら考えていた彼女は、窓辺に揺れるルピナスの花に気が付く。それは前の年の夏に蒔いた種が芽吹いたものだった。

翌年の春、具合がよくなったミス・ランフィアスは久しぶりに散歩に出て、丘の向こうに美しく咲き乱れるルピナスの花畑を見つける。それは昨年庭に咲いた花の種が風で飛ばされて芽吹いたものだった。咲き乱れるルピナスの花に手を伸ばした彼女は、祖父との約束を果たすための素晴らしい方法を思いつく。彼女はたくさんのルピナスの種を注文し、村のあちこちに種を蒔いて歩き始めた。村を美しいルピナスの花でいっぱいにするために。


丘の向こうのルピナスの花畑は、ミス・ランフィアスが意図して作ったものではない。庭に植えた花の種が風に乗って運ばれ、自然に芽吹いてできたものである。それを見てミス・ランフィアスは、年老いたなんの力のない自分でもでも、世界を美しくするためのきっかけを作ることはできるのだと気がついた。こんな自分にもまだできることがあるのだと確信できたからこそ、彼女は再び歩き始めることができたのだろう。

この物語のルピナスの花の種は、人の言葉や行為などを表しているのだと思う。私たちは生きていく中で、様々な人と出会い、多くの言葉や行為に触れ、その影響を受けながら変化していく。私も44年という歳月を生きる中で、家族をはじめ学校の先生や部活の先輩、友達、仕事や子育ての中で出会った人達から、多くの気づきや学びを得てきた。

その一方で、私も出会った人に対して何かしらの影響を与えてきたのだと思う。知らず知らずのうちに色々なところで種を蒔いてきたし、これからも蒔いていくのだろう。その種がどこで芽吹き、どのような花を咲かせるのか、それは私の方でコントロールすることはできない。

だからこそ、自分が何気なく蒔く種(=言葉や行為)によって傷つく人がでないよう気をつけていく必要があるし、できればルピナスさんのように「世の中をもっとうつくしくする」のに役立つ種を蒔くよう心がけることが大切なのだと思う。

新型コロナウィルス発生以降、社会は混乱を極めている。先行きが見えず不安な日々が続いているが、自分の言動が他人に与える影響について考えたり、今の自分ができることは何かについて考えたりする人が増えれば、少しずつ情勢は変わっていくかもしれない。そんな希望を感じさせてくれる一冊だった。

2021.1.19投稿

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