おすすめ絵本:『あな』(福音館書店)



「にちようびの あさ、なにも することがなかったので、ひろしは あなを ほりはじめた。」というインパクトのある語り出しで始まるこの絵本は、ななちが3歳の頃、コミュニティ保育の読み聞かせ会で出会ったものである。初めて聞いた時、子どもの絵本にしては随分と哲学的だな…と思った。絵本を手にして作者が谷川俊太郎だと知り納得した。

主人公ひろしはひたすらに穴を掘る。途中、お母さんや妹、友達、お父さんなどがやってきて声をかけてくるが、ひろしは「さあね」「まあね」と聞き流し、手のまめが痛くなっても掘り続ける。そして、納得するまで掘ると底に座りこむ。静かな穴の中で土の匂いを感じ、空を見上げる。「これは ぼくの あなだ。」確認するとひろしは穴を埋めはじめる。

周囲の雑音にとらわれず、一途に穴を掘るひろしは、しっかりと「自分」を持った少年なのだと思う。自分の力だけで作った自分の場所で、ひろしは何を感じたのだろう。

声をかけてくる人の中で父親だけが少し違った目線でひろしを見ている所も印象的だ。掘っている時は「あせっちゃだめだ」とアドバイスし、掘り終わった後には「なかなか いいあなが できたな」と温かい言葉をかける。詮索したり、意見したりせずただ見守っているのだ。理想的な親の在り方のように感じた。

このように書くとこの絵本は大人向けのように感じるかもしれないが、もちろん小さな子供も充分楽しむことができる。くっきりとした色使いのゆるいイラストが谷川俊太郎を親しみやすいものにしている。掘られていく穴の深さを表すため、日めくりカレンダーのようなスタイルになっていたり、表紙が穴の底から見上げた空、裏表紙が地上から覗き込んだ穴になっていたり…とデザイン的にも工夫されている。ひろしの穴の隣で小さなミミズが少しずつ穴を掘り進めており、ひろしと遭遇するという小ネタも子供達は見逃さない。

親子一緒に谷川俊太郎の世界を楽しむことができる絵本である。